服の歴史と構成を織りなす要素として民族衣装を研究材料にし、
そこから得られる機能性や美を服に落とし込み多方面から表現しています。

GUATEMALA

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Photo by 田村正義 Masayoshi Tamura
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Photo by 田村正義 Masayoshi Tamura

 Chaqueta(ジャコッタ)はスペイン語でJacketの意です。今回は主にソロラのジャコッタをピックアップしました。ウールで出来たショートジャケットに豪華に刺繍やパイピングが施され、その意匠はスペインの影響かヨーロッパの18世紀ごろの軍服やフロックコートの流れが見られ形はマタドールの着るショートジャケットの様子もあります。別の村ではスペインの侵略とマヤ人との戦いを踊りで表現する祭りがあり、その中のコンキスタドール(侵略者、冒険者の意:スペイン語)を模した仮装などからもその影響は見ることができます。中に着るカミサも生地が派手なのもさることながら、刺繍もかなり派手でソロラの主たる民族であるカクチケル族の主紋であったコウモリの意匠があしらわれています。中にはコウモリの中に国鳥のケツァールや蝶のモチーフがあしらわれることもあります。


 Rodillera(ロディレラ)はソロラの男性が身につける腰巻です。標高の高い場所に位置するソロラは朝と夜の温度差が激しくその温度差から身を守るためにつけているようです。ロディレラはウールで出来ており腰帯であるファハで留められています。通常ロディレラの下にはpantalones(パンタロン:パンツの意、スペイン語)を履きますが、年配の方などにはロディレラのみスカートのようにして履く人もいるようでその人の感覚的に暑かったり寒ったりでその使い方は自由のようです。


 新作のコートはそのジャコッタとロディレラを繋げてしまいました。繋げたと言っても切り離しが出来ます。ジャコッタ部分は現地のものに近づけるように前下がりを上めに配置し、衿幅も通常より大きめに取っています。着丈もややショート丈になっていて気軽に羽織れるライトジャケットになっています。そしてその下につくのがロディレラをイメージした腰巻です。腰巻というと日常使いが難しそうなので今回はエプロンに仕立ててみました。ジャコッタとロディレラはボタンで着脱可能になっており、ロディレラ側のボタンホールに付属の紐を通すことでエプロンとして単独で使用することができます。ロディレラには大容量のポケットがついており寒い時期の防寒として、さらには日常使いのバッグの代わりとしてもお使いいただけます。ジャコッタ、ロディレラ、2つを繋げたコートと3WAYのコートです。

 Capixay(カピシャイ)とはグアテマラのサン・ファン・アティタンというムラの民族衣装で、ウールのフェルトでできた外套です、Camisa(カミサ、シャツの意:スペイン語)の上に羽織る貫頭衣の一種で、頭からすっぽりとかぶり、ウェストでファハ(腰帯)でしばります。

 サン・ファン・アティタンは標高2500m程の高地にあり、寒さをしのぐための衣服と考えられます。特徴的なのは前身頃と後見頃が垂れ下がったその様相と、更には方からぺロンと垂れ飛び出た袖にあります。その形の機能性は不明ですが考えられる事としては荷物などを背負う際の肩バッドのような物の役割から派生して徐々に装飾として伸びて行ったものか、はたまた肩の温度調整のための袖としての役割なのか定かではないですが、紫のカミサに黒いカピシャイ、白いパンツの合せは非常に鮮やかに見えます。またサン・ファン・アティタンでは民族衣装の着用率がほぼ100%と言われており、村民のアイデンティティとなっているようです。

 カミサ(Camisa)はサン・ファン・アティタンでは主に紫や赤に染められた糸を使った生地でその紫は貝紫(かいむらさき)という階の鰓下腺(パープル腺)から得られた色だそうで非常に貴重な染色材で、高価な位の人達の色として使われていたようですが、現代においては化学染料などの汎用性のある染色材で染められているようで文化としての名残がみられます。別の村のトドス・サントス・クチュマタンの民族衣装のカミサもサン・ファン・アティタンのカミサ同様ですが襟が特徴的です。会場にはトドス・サントス・クチュマタンのカミサの50年ほどの前の物を展示しています。ものすごく大きく綺麗に織られた生地の襟は他に類を見ない物となっています。そしてアメリカ、メキシコからウェスタン調の装いの流行が入ってきたらしく現在のカミサはスナップボタンで留め、パターンも現代のシャツの特徴を色濃く反映しています。今回はそんなカピシャイとカミサを融合。シャツの見返しにあたる部分をカピシャイの前身ごろをイメージして大きく取り、通常裏面に付ける見返しを表に出し、またウェスト位置ほどにファハで留めることでできる”たわみ”をポケットや手を温める場所としてポケットに昇華しました。襟は民族衣装のような大きさにするとやはり大きすぎてしまうので、通常より高めの台襟に大きめの襟を付けることでらしさを多少なり演出出来たのではないかと思います。


 第2ボタンが隠しボタンとなっているのは第一ボタンを明けた時の前空きの具合がが也らしく広がりすぎないように、適度な位置で留められるようにしたものです。今回も袖はアームホールを大きく取りつつ細く見せる袖と、細さゆえの肘を曲げた時の窮屈感を軽減するために、肘周りを5㎜ほど大きくしていつも通り着心地の良さも維持しています。

 グアテマラの民族衣装の代名詞。Huipil(ウィピル)は貫頭衣の一種で地域ごとによって多少の違いはありますが、通常2枚から3枚の生地を縫い合わせ、頭と腕を出す部分を残して縫う、形としては原始的な服です。日本の古くも貫頭衣が着られていました。同じモンゴロイドとしてこの距離での共通点は親近感を与えてくれます。


 グアテマラの説明の文にも書かれていますがマヤ文明が栄えていた頃から着られていました。マヤ文明のいつ頃から着られてかは不明ですが、マヤ文明の石碑の中にはそれらしい服を身につけたものも見られ、その歴史の永さと現代に引き継がれていると染色、織の技術には興味をそそられます。1500年代にスペインの侵略、統治がなされてからそこへ今まで幾何学的な文様の多かった刺繍に、西洋式の刺繍などの意匠が入り込みその鮮やかさがさらに広がりを見せる事になります。染色においてはその色合いはグアテマラ・レインボーと呼ばれるほど有名なものになり、ウィピルをはじめ、ファハ(腰帯)やスーテ(腰巻)は観光に来た人たちへのお土産物としても有名になり、現地の生活の糧として非常に重要な役割を担っているのです。かのフリー・ダカーロも地域は違いますが生前はウィピルとスーテの着用を好んでいたと言われています。

 

 そのウィピルをブラウスに落とし込んでみました。基本的なパーツは3つから成ります。見頃の当たる部分と袖にあたる部分。通常ウィピルは生地に穴をもうけただけのものですが、着やすさを演出するため前開きを作り、ボタンで留められるようにしました。完全にウィピルの形にしてしまうと腕の動きに生地が引っ張られ野暮ったくなってしまうので肘から下ほどに袖をつけゆったりとしたシルエットながらもすっきりとして着心地の良いブラウスに仕上げることができたのではないかと思います。

 Sobre(ソブレ、上の の意:スペイン語) Huipilはその通りウィピルの上に着るウィピルです。主に儀式の日などに着る物で、それは着丈が長く幅も大きく取られ非常にゆったりとした優雅な印象のウィピルです。時間をかけて織られた手織りの生地を贅沢に使ったもので、内側に着るウィピルがもとよりゆったりしているのでそれを超える大きさのものでなければならない。ゆえにかなりの大きさになっています。

 

 そこで私は簡略化を考えました。必要最低限のパーツを製作し、タイトにそして必要な部分にゆったりと。ウィピルの持つシルエットをできるだけ壊さずに作ったのがソブレウィピルドレスです。首後ろにちょっとしたアクセントの切れ込みを入れ頭を入れやすくしました。ウィピルの着心地の良さはバスト周りのゆったりさと考え、バストラインに切り替えを配置。多めのタックを配置することでバストからウェスト、果ては裾までゆったりとしたラインになっています。背中の中心にもタックを配置し腕の動きやかがんだ時の背中の運動量に対応しており、シャツのような裾は前後で長さを変え、少しカジュアルにしつつも綺麗な形作りが実現しました。着た時は全体を通して直線的なラインですっきりとしつつも女性らしさを生かしたドレスになったのではないかと思います。

Primitiv(原始的)。それは服の進化の過程をなぞる上では非常に興味深いものです。
今回製作しましたPrimitiv T-Shirtsは服の原祖である貫頭衣(かんとうい)をモチーフに作りました。諸説あるのですが生地に頭を通す穴を開け、腰紐で縛るだけの服。他には2枚の生地を縫い合わせ、頭が通る部分だけ縫わずに穴とするタイプも考えられているようですが、今回は生地に穴を開けただけのものをモチーフにしてみました。日本では縄文時代、弥生時代の頃に着ていたとされていて、ヨーロッパ、ギリシャでは今でも聞く「チュニック」が原始的な服として有名です。
 今回のTシャツはまさにそれらの特徴を受け継いだもので縦長の生地の真ん中ほどに頭を入れる穴をぽっかりと開け、2つに折っているだけ。ゆえに肩の縫い目がないのです。肩の縫い目がないということが見栄えにこれほど影響を及ぼすとは企画中は想像もしませんでしたが結果、肩のラインが非常に綺麗に見えるものになったのではないかと思っています。身幅などは比較的ゆったりとしさせていて、肩から袖にかけてできるドレープが空気の流れを作り夏場には涼しく、冬に中に切れば空気層を作り暖かいという副産物まで生み出してくれました。
 昔は織物で作っていたものなので多少着心地は腕周りがゴワゴワしたかっもしれませんが、ニット生地で作っているのでその点もクリアになり想像を超えて原始的でありつつも現代の生活に密着したものになったのではないかと思います