服の歴史と構成を織りなす要素として民族衣装を研究材料にし、
そこから得られる機能性や美を服に落とし込み多方面から表現しています。

NORTHERN EUROPE [SAMI]

サーミ人はスカンジナビア半島の原住民族。サーミの人たちは13世紀頃各地を統治する諸国により、統治国家ごとに土地が分断されたり、またスカンジナビア半島は沖縄から北海道の端まで合わせた距離より大きく、更に統治諸国によって分断された事により血筋や文化も混ざり、サーミ人の中にも様々な生活様式が生まれた。山でトナカイを追う者や魚を追う者。南のスウェーデン寄りの者や北のロシア寄りの者と多様である。

 サーミ人はGaktiと呼ばれるトナカイの革でできた上着を着用していたが近年では切る人も少なくなってきた。

 一昔前までサーミ人はトナカイの放牧を生業としてきた。しかし現在トナカイで生計を立てているサーミ人はごくわずかでトナカイの毛皮が一般的にあまり流通しなくなった事や、長年にわたるサーミ人文化の抑制政策の影響もあり、現在のGaktiの素材は毛皮や革からウールに変化していったのではないかと考えられる。また一面真っ白い世界の中で有事の際に目立つようにと、森の中で熊と間違えて攻撃してしまわないようにとの逸話もある。革よりウールの方が保温性に劣ることから中に着るものの進化ももしかしたらあったかもしれない。

Gaktiの中にはベストのような胸あてが存在する。おそらく貫頭衣のような、生地に穴をあけただけのものから発達したが、冷気がそこから入ってくるので内側からふさぐ目的で胸あてが出来たのではと安易な考えを持っているが、まだそこまで解明していない。しかし遮温性に関して胸あてはその機能性を遺憾なく発揮する。しかし毎回上着の中に専用のベストを着るとなると手間である。なので前立てを別生地としてかぶせる事で胸部の保温性を増強。またサーミ人の首の隙間を埋めるチャールフと呼ばれるストールは、通常より高さのある襟の隙間を埋める形状のチンベルトでその要素まかなっている。
 

またウェストベルトの位置に関して。私は常々西洋人より腰の位置の低い日本人では同じ場所にあっても似合うはずが無いと思っていたので腰より少し下の腰骨に来るようにした。これは日本の男性の浴衣や着物の帯に通ずる位置である。後ろは高く、前は低く。それにより独特のシルエットを再現することに成功した。また現代のGaktiは裾がプリーツスカート状に広がり動きやすさをカバーしている所を、このジャケットはサイドにベンツを持ってくる事で動きやすさとシルエットの良さを実現している。

南部のGaktiは毛をそぎ落とし、よりシャープなシルエットとなっている。おそらくノルウェー人の民族衣装との融合が時間をかけておこなわれたのであろう。極寒に耐えられるほどの分厚い衣類を着たサーミとは違い(北の方は冬だと-40℃になる事も、南部でも冬は-10℃)、もう少し寒さと命との距離があったので着飾ると言う事にも意識を向ける事が出来たのでは無いかとおもわれる。

 そんな南部のGaktiをテーマにしたシャツはプルオーバーで、前立ては現代のGaktiの特徴の2本のラインを交差させた前立てに。通常Gaktiは長い着丈を腰のベルトで調整するが、その長い着丈からくる見栄えの美しさを残すために着丈は通常のシャツより長めに作られています。またお客様の声として腕を曲げる時の窮屈さを訴えられる方がいらっしゃいました。それは腕の細さを追求した結果なのですが、今回見栄えの細さをある程度残した上、着心地も改善刷る処置をパターンで施しました。胸ポケットの下部は比較的直線的なサーミの印象と北欧の曲線的な印象の融合を表します。現在、過去に虐げられたサーミ人の文化は、1980年代から文化復興の流れの真っただ中にいます。北欧の闇であり光であるその一端をこれを機に興味を持っていただけたら幸いです。