服の歴史と構成を織りなす要素として民族衣装を研究材料にし、
そこから得られる機能性や美を服に落とし込み多方面から表現しています。

SAUDI ARABIA [BEDOUIN]

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Photo by 田村正義 Masayoshi Tamura
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Photo by 田村正義 Masayoshi Tamura

中東と言えばトーブ、と言うほど定番の民族衣装トーブ。男性のほとんどが着ている。簡単に言ってしまえ丈の長いシャツであるが、やはりその存在は必然というべきかそこに込まれた機能性や美しさは存在する。

 

 トーブは国や民族によって微妙に違いがあり、トーブを見ればどこの出身か分かるほどだという。立ち襟のものはサウジアラビアやクェート。アラブ首長国連邦のもの(UAEではカンドーラと呼ぶ)は襟なしなどの様々な違いがある。基本的にオーダーメイドで生地から選んで作るそうで、着丈はくるぶしが出るほどの長さが一般的。

 昔のトーブには前身頃、後ろ身頃の間にジャケットのように脇パーツが存在している。現在のトーブにおいては西洋のシャツの要素が多く入っており、脇パーツが無いものも多くあり、一言にシャツと言ってものいろんな種類があるようにトーブにもいろんなデザインがあるようだ。

 内側は同じ生地で作られたゆるめのパンツ(シャルワールやサロン)を履いており、裾は、動きやすいくするため比較的ゆったりとしている。驚くのはトーブで使われて生地の半数ほどは日本製であるということ。大阪にある企業が多くを占めているという。日本製の物が高く評価を受けることはその会社の人間でなくとも非常に嬉しいことである。

 

 体全体を覆うのは強烈な日差しから、また砂漠の砂から身を守るためのもので、最低限露出する必要のある部分のみを除いて全て覆っている。宗教上肌の露出を避ける流れもあるようである。比較的ゆったりとした作りは空気の流れが出来るようになり、服の内部温度をある程度保ちつつ涼しくなるようになっているようだ。上半身は比較的フィットしているので、どこかスマートさがあり、男性の身体の美しさを演出しているようにも思える。サウジアラビアの国王もトーブを纏い、公の場に出ているので日常生活から正装時まで幅広く着られている。

 今回ピックアップするのはやはり見栄えの美しさである、上半身をメインにスタンドカラーで、脇パーツを用いて着た時の美しさを表現できた。スタンドカラーも通常の襟より2倍ほどの高さにしている。また機能性という面においてはその通気性を更に向上すべく、背中心、脇下に「あき」を設置しシャツ内の空気の流れをより生み出すようにしている。実際のトーブはプルオーバーであるが前開きに変更している。

 

 デザインとしては同じもので丈の長さを2種類作り、ショートバージョンは腰よりすこし長め。ロングバージョンも膝より少し上ほどまで長くし、日本の上下運動の多い生活に対応出来るようにしてみた。共にシャープに見えつつもゆとりをもたせて動きやすくきやすいシャツになったのではないだろうか。

現在サウジアラビアではトーブという丈の長いシャツをメイン着ているが、そこへ西洋のジャケットを合わせて着るというスタイルが多く見られる。一説によると現代の服において砂漠で一番活躍するのはジャケットだという説がある。実際にジャケットをきて砂漠をウロウロしたという記事を読んだことがあるが、確かに便利そうであった。

 そこまでの環境に置かれなくともジャケットとトーブの組み合わせが実に綺麗に収まっているのだ。トーブの丈の長さに合わせてジャケットの着丈も長めにうかがえる。

 

 そこでアバを着た時の前あき具合をジャケットに加え、さらにジャケットよりも少しだけゆるいサイズ感にしたジャケットを製作した。アラブの反乱の英雄として称えられているAuda Abu Tayeh(アウダ•アブ•タイ)氏の写真が異常にかっこよく、彼のアバの下に着ているジャケットのようなものをどうにか具現化してみたいという欲も相まっての企画である。

 

 出来るだけプリミティブな要素を残したかったのでパターニングは一般的なジャケットに比べるとラフに作ってあるが、そこはFAUST CLOTHINGの持つきれないシルエットでカバーしている。前あきは拝みボタンで留めるようにしており、それにより前あきが立体的にすることができる。ポケットは少し遊び心を入れて左右でフラップを有りと無しで分けてみた。 ちょっとしたパーティなどでスタンドカラーやボタンダウンシャツなどに合わせて着ていくのもありなのではないかと思う。

アバはベドウィンのコートを指す。ウールでできた厚手のコートで、四角い後ろ身頃に長方形の前見頃を縫い付けた袖の無いかなりゆったりとしたコート。羊の毛皮でできたものや羊毛で編まれたものなどがあり、主に冬季に着用するものである。

 この大きなコートは袖が無いというのが大きな特徴であり、私の想像するに外套としての機能だけではなく夜のブランケットとしての用途もあったので無いだろうか。砂漠の夜は非常に寒い。そんな中毛皮や羊毛でできた大きなコートをかぶる事で外気を遮断し体温を維持していたに違い無い。また袖が無い事で独特のシルエットが出来上がるもので、単純ながら実に美しい。

 今回その特徴を生かしつつ、ベドウィンの戦士としてのイメージからミリタリーコートとの融合を試みた。ベースはモッズコートとして有名なM-51シェルパーカである。モッズたちは中に着るスーツにシワがつかないようにあえて大きいM51を着たと言われている。その点において今回のアバは実にハマる要素ばかりである。また時代背景としてもベドウィンとイギリスは関わりを持っている。アラブの反乱の際、ドイツと組んでいた オスマン帝国に対し独立を目的として反乱を起こしたベドウィンをバックアップしたのがイギリスなのである。結果としてはイギリス、フランスによる統治を経てアラブ民族たちはサウジアラビアを創ることになった。見る人から見ればナンセンスとなるかもしれないが。しかし私としては時代を超え関係性を持った国文化同士の融合を実験的に行うということは非常に面白いものになるのではないかと考え、企画した次第である。

 形としてはアバの持つ袖の無い形を残すため身頃が肘まで来ておりそれより先は小さいながら袖をつけた。ウェストには絞りを入れるためのコードが入れられているが単純にウェスウト位置で絞るだけだと腕を上げた時に身頃ごと上方に持って行かれ腕が上げづらくなってしまうので、独特のウェストラインをとることになった。現代の生活において袖が無いという状況は少し動きづらさがあるところ様々な調整を経て動きやすく、アバの持つシルエットの美しさを維持しまたミリタリールックという使い慣れたアイテムにすることができたのは成功と言える。こちらもその独特のシルエットを楽しんでほしい。

近代のベドウィンの女性用トーブは実に豪華で美しい。形としては近代の男性用トーブと同じような作りではあるが刺繍やフリンジなど手の込みようが一段と素晴らしく観ているだけでも飽きない。

 それはそれで良い物ではあるが特筆すべきは昔のベドウィンの民族衣装である。同じトーブでも使う生地の量が格段と違うのだ。地域によって異なるものもあるがなんと着丈3mを越すトーブが存在する。それはまくしあげ腕にかけるなどしてドレープを作り着るものなのであるが正直これが一体どうしてこの形になったかまではまだ私の中でも明らかではない。今まで民族衣装を見てきたものの、その中にもない全く新しい存在である。しかし贅沢に生地を使い作り出されるその見栄えはやはり美しく迫力すらあるものである。その贅沢に生地を使った昔の衣装と近代のベドウィンの衣装と掛け合わせ、また大胆にもウェストで分けてしまい今回はトーブをブラウスとスカートにしてみた。

 

 民族衣装によく見られる、直線裁ちを利用した切り返し、または胸元に大きく入った刺繍が目を引く。さらに先ほど出てきた大量の生地を使ったドレープ感やシルエットを再現すべく異常に大きいパフスリーブを採用、スカートもタック分量をかなり多く入れ、ふんわりとしたシルエットにしている。腕のパーツは3つから成り、L字の形をしている。これはL字に曲げて作ることで腕を伸ばした時のドレープ感を演出する効果がある。

 スカートはウェストのデザインを特に見ていただきたい。よく見られるハイウェストのスカートやパンツは前から見るといいのだが個人的には後ろ姿がどうものっぺりして見えるような気がしている。なので今回のスカートはウェストベルトの後ろを前より下げ、またベルト幅も広げ、切り返しを視覚効果としてヒップからウェストへの距離を長く見せないようにしている。またタックを後ろに多く取ることでヒップにフンワリとしたボリュームを持たせることでウェストの細さをより強調している。

サウジアラビアの女性と聞いて思い浮かぶ姿とはどんなものか。真っ黒の服で顔から爪先までを隠した姿。それが一般的なサウジの女性像だと思われるが、彼女たちが着ている黒い服をAbaya(アバヤ)という。アバヤはベドウィンも着用しており敬虔なイスラム教徒が着るものである。

 よく女性はその身を隠さなければならない中東は差別主義だという人権派の方々の意見を耳にすることがあるが実はこのアバヤで身を隠すという行為、任意だそうで自由なのだ。なので現地に行っても顔すら出さない人。顔は出して頭を隠す人。隠さない人など自分の主義において自由なのである。

 そんなアバヤ。仕様はアバとほぼ同じで、四角い後ろ身頃に長方形の前身頃を縫い付けた袖のない形をしている。また現代においてサウジの正装時に着用されるBisht(ビシュト)も同じような仕様である。アバ、アバヤ、ビシュトは名前こそ違えどルーツはおそらく同じなのであろう。ビシュトは黒や白、ベージュの見頃に金糸で襟周りを豪華に刺繍した服である。生地に使われている糸は若いラクダの毛と言われ透けるほど薄くその緩やかにたなびく様子がなんとも優雅だ。

 その優雅さを保ちつつ現代に落とし込んだのがこのビシュトコートだ。袖は無く、見頃と一体化され、脇下の生地が腕を落とした時にゆるやかなドレープを作る。首後ろにもタックを設け全体に落ち感を演出。縦のドレープを作ることですっきりとした印象を与える。前身頃の裾はラウンドしており、長い着丈の裾が歩行や乗降運動の邪魔にならないようにした。前あきは拝みボタンで止める。全体がドレープで立体的なので拝みボタンを使用することでその立体感をつぶさず生かしながら前を止めることができる。